一昨年かなあ、友人から電話で相談がありまして、彼女の母が絵を描いているのだけれどそれらを出版できないかという話。絵のコピーを送ってもらったんですが、とてもすばらしいものでした。僕は長い間出版業界に関わっていたとはいえ末席ですから、直接何かをお手伝いする術も知りません。おつきあいさせてもらったいた多くの出版社は美術系出版社ではなくIT系が中心でしたしね。
彼女には、まずは本屋さんに行って、作りたい本を出している出版社を探し、そして直接作品を持ち込むのが一番だよとアドバイスしました。出版社ってとても敷居が高いイメージがあるかもしれませんが、そうでもないんですよ。そこにいる人達はいい作品を世に出したいという心意気や気持ちを持っている方々がほとんどです。やんわりと断られても、時には的確なアドバイスをしてくれたりします。
しばらくして、彼女から連絡がありまして、とある出版社から共同出版という形でのアプローチがあったとの事。出版社名を聞いて、あまりいい噂は聞いていなかったので、慌てずにゆっくりと考えた方がいいと返信。僕の返信が影響したのか、彼女の母はその出版社から自著を発行する事は止めたようです。
大手自費出版の新風舎(本社・東京都港区)は7日、東京地裁に民事再生法の適用を申請し、弁済禁止などを含む保全処分の決定を受けた。同日の会見で、松崎義行社長は「みなさまにご迷惑をおかけし、本当に申し訳ありません」とおわびし、同法の申請について「制作中の本や流通に乗っている本の出版活動を達成するため」と説明した。
インターネットが既にインフラとなり、ブログなどのツールが普及したことで、誰もが手軽に自分の作品を公開できるようになりました。もちろん仕組みが出来始めただけですけれど、この流れは加速されそうです。
とはいえ、一冊の本には、とても重みがあります。僕はデザイナーとして、ライターとして、あるいはイラストレーターとして数多くの出版物に関わらせてもらいましたが、そこにはその一冊の本を誰かに届けるため多くの人の情熱や愛が集約されています。著者はもとより、装丁家やデザイナー、そして編集者や広報担当者、印刷会社や流通業者などの見えない力がそこにぎっしりと集約されています。ずっしりと重いのは、単に紙の重さだけではないんですよね。
「新風舎」が民事再生法の適用を受けたのは、僕に言わせれば自業自得。そういった本の重さを軽んじていた出版社の行く末がこうなるんだなんだと感じました。出版業界の取次業者の問題なども根が深いようですが、何より「新風舎」には出版に対する重みを受け止める事もできなかったんだなあと残念に思います。所属していた人や関わっていた方々は頑張っていたとは思うけれどね。
取次というシステムに関して疑問も数多くあるんだけれど(それをビジネスモデルとして利用したのが新風舎だからね)、今回のケースは出版社としての心意気が足りなかったんだろうなあ。でも心意気のある出版社だって数多く倒産している。このエントリーを眠らせている時に、「草思社」が倒産なんてニュースが入ってきたしなあ(参考:クラシックなアテンション経済としての出版システム その機能不全に挑んだ破綻企業 【本の再販制を巡って】:アート資本主義 - CNET Japan)。
時を同じくして岩波書店の広辞苑が10年ぶりの大改訂。この重さって半端じゃないもんなあ。広辞苑の重さとWikipediaの軽やかさの対比が、なんとなく出版の次のステップへのヒントになるのかもしれません。
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